福島家庭裁判所 昭和41年(家)396号 審判 1969年12月22日
申立人 牧野良蔵(仮名)
被相続人 牧野庄太郎(仮名)
主文
別紙目録記載の不動産を含む被相続人の相続財産全部(但し昭和四一年一〇月三日附審判により既に分与されたものを除く)を申立人に与える。
理由
被相続人に相続人のあることが明らかでないため、申立人の申立により民法第九五二条以下所定の手続を経た上、申立人に相続財産を与える旨の審判(第一次審判という)が昭和四一年一〇月三日になされたことは本件及び関連事件(昭和四〇年家第一一四号、同第五五〇号)の記録によつて明らかである。しかるところその後申立人の申出により更に調査した結果、被相続人がその妻ユキエ(昭和一一年三月二九日死亡)より遺産相続して生前所有しており本件相続財産に帰属するものとして別紙目録記載の不動産の存在することが判明した。
ところで民法第九五八条の三に基づき相続財産の分与を求める審判事件においては、申立に拘束されることなく裁量により相続財産の全部または一部を与えることができるのであつて、民事訴訟における請求と判決との間の対応関係と異なる点があるけれども、申立が物件を特定していると否とを問わず相続財産全部の付与を求める趣旨であるのに対し、客観的にはその一部を与える審判がなされ、しかも一部分与であることすなわちなお残余財産の存在することを裁判所において認識していなかつた場合には、右残余財産は未だ国庫に帰属しておらず、これにつき、民事訴訟法第一九五条第一項を類推し更に追加して審判することができるものと解するのが相当である。
これを本件について見るに、当初の申立は一応物件内容を掲げてはいるけれども、財産全部の付与を求める趣旨であり、ただ申立人(本件相続財産の管理人でもあつた)の法律的知識が不十分のため、別紙目録記載物件が前記遺産相続により被相続人の所有となつていたことを知らなかつたに過ぎず、その結果裁判所もこの点を看過して申立人主張の物件のみにつき審判したものであり、一部に限定して与える意図でなかつたことを第一次審判の理由その他審理の全経過から認めるに十分である。
よつて第一次審判に脱漏があるものとして更に判断することとし、右審判に示されたところと同一の事実を特別の縁故事由として認定し、結局本件相続財産全部を申立人に与えるのが相当と考え主文のとおり審判する。
(家事審判官 山下巖)